内海唯花は実家の人が、簡単にあきらめるような輩じゃないと知っているが、姉妹二人の住まいは彼らはまだ知らないし、こんな大きな都市で、姉妹二人を探そうとしても見つけられないだろうと思ったら、一度怒った後、気持ちを収めることにした。姉の家に食事に行く気分を壊したくないからだ。 さっきの二人の会話を、結城理仁は耳にしていて、覚えておいた。 彼はすでに九条悟に内海家全員の資料を調べてもらって、近いうちに結果が出るだろう。 夫婦が佐々木唯月の家の階下に着くと、ちょうどゴミを捨てている佐々木唯月を見かけた。 「お姉ちゃん」 姉に会って、内海唯花は喜んで、先に姉に向かった。 「唯花、あなたたち、来たのね」 佐々木唯月は妹夫婦に会った時、顔の疲れが吹き飛んでしまった。結城理仁が大きな荷物を持って車を降りるのを見ると、彼女は妹夫婦に「よそ者ではないし、ご飯を食べに来ただけなんだから、こんなにたくさんのものを買ってきて、無駄遣いをしなくてもいいのよ」と愚痴を始めた。 「義姉さん、これは果物を少し買っただけですから」 結城理仁が義姉を親しく呼んでいたから、唯月はこの婿を見れば見るほど好きになった。おとなしくて温厚な人で、口数は少ないが、妹には優しかった。 唯花は姉が心の中でこのように結城理仁を思っていることを知ったら、彼女は泣くことも笑うこともできないだろう。 「義兄さんはまだ帰ってこないの」 内海唯花は姉の腕を親しく引いて「陽ちゃんは?」と尋ねた。 「お義兄さんはまだ帰ってくる途中だから、もうすぐ着くと思うわよ。陽ちゃんは上の階にいて、彼のおばさんたちと家族がみんなで陽ちゃんの面倒を見てくれているの。だから私は下にゴミを捨てに来たのよ」 姉の嫁ぎ先一家が来たと聞いて、内海唯花はすっきりした眉をひそめたが、結局何も言わなかった。 一部の話は、姉妹二人がプライベートで話せばいいので、しばらく結城理仁の前では言わないことにした。 佐々木家も内海唯花が結婚したことを知っていた。佐々木俊介の姉が来ると、佐々木唯月に彼女の子供三人を都内の学校に通わせると言い、しかも唯月たちの家に泊めて、唯月に世話をさせるつもりだった。佐々木唯月はもともと家で子供の世話をしているので、一人の世話は三人の世話と変わらないなどと言っていた。 実は、
佐々木家の姉の末っ子が追いかけてきて泣き叫んだ。「陽くんの持ってる飛行機がほしい!」 陽はすぐに自分の飛行機のおもちゃを前に隠して、緊張した様子でいとこを振り返りながら「ママ、抱っこ、ママ、抱っこ」と叫んだ。 唯月は息子を抱き上げた。 「唯月、陽くんにおもちゃを私の子に貸してあげるように言って。この子はお客さんだから、陽くんは譲るべきよ」 佐々木家の姉は近づくと、末っ子の涙を拭き取ってから立ち上がり、陽の飛行機おもちゃを奪おうと手を伸ばした。陽は手を離さなかったが、その姉は無理やり奪おうとした。 その時、唯花夫婦に気づき、結城理仁が手に大きな袋をいくつも持っているのを見て、すぐに手を引っ込めた。 そして笑顔で内海唯花に挨拶した。「唯花ちゃん、お久しぶり。この方があなたのご主人?なんてハンサムで、堂々としてるのかしら!」 ハンサムなだけではなく、その気品や風格は、自分の大企業で部長をしている弟よりも何倍も素晴らしい。 佐々木家の姉は内海唯花に少し嫉妬した。 「お義姉さん、お久しぶりです。こちらは私の主人で、結城と言います」 佐々木家の姉は慌てて結城理仁に挨拶した。 理仁は軽く会釈したが、何も言わず、とても冷たい感じだった。 玄関に入って、佐々木家の姉が陽のおもちゃを奪って自分の息子に渡そうとしているのを見た瞬間、理仁に好感はなかった。陽は年下だし、おもちゃも彼のものなのに、なぜ従兄に譲らなければならないのか? 理仁は身内を大切にするタイプの人間で、他人の子供を満足させるために自分の子供を犠牲にすることは決してない。 彼は陽のことをとても気に入っていて、陽が不当に扱われるのを見過ごすことはできなかった。 佐々木唯月は妹夫婦に中へ入るように呼びかけ、佐々木家の姉は自分の末っ子を抱き上げた。その子は甘やかされて育ったようで、まだ陽のおもちゃが欲しいと泣き続けていた。 佐々木俊介の両親は、内海唯花夫婦がこんなに多くの贈り物を持ってきたのを見て、満面の笑みを浮かべた。以前は唯花のことをあまり好んでいなかったが、今や彼女は結婚して家を出て、夫がトキワ・フラワーガーデンに家を持っていたり、大企業で幹部をしていると聞いていたから、唯花に対する態度は180度変わったのだ。 皆座った。 結城理仁は買ってきた物
結城理仁は少し潔癖で、その子が汚れた手で新しいおもちゃを汚したのを嫌がり、寛大にも相手にそのおもちゃをあげることにした。 子供たちが喧嘩を止めると、大人たちの雰囲気も和やかになった。 結城理仁は何も言わなかったが、先ほどのその目つきと表情から、佐々木家の皆は唯花の夫がいい加減に扱うことはできない人であることを理解した。 佐々木家の母親から見ると、内海唯花は元々厄介な存在だった。そして、今度はさらに手強い男と結婚した。そして自分の息子の性格をよく知っている彼女は、自分の嫁が内海唯花と深い絆を持っていることも理解していた。 彼女は、折を見て息子にあまりやり過ぎないように忠告しなければならないと考えた。佐々木唯月は専業主婦でお金を稼いでいないとはいえ、佐々木家に初孫を産んでくれたのだ。功績はないかもしれないが苦労はしてきたので、唯月の顔が立つようにするべきだ。 佐々木俊介はすぐに戻ってきた。 彼が戻ってきて少し休憩した後、佐々木唯月は皆に食事を呼びかけた。 内海唯花は姉と一緒にキッチンに入って料理を運ぼうとしていたところ、たくさんの海鮮料理を見て、小声で姉に言った。「お姉ちゃん、私も理仁さんも他人じゃないし、あり合わせの食事でいいんだから、こんなにたくさんのシーフードを買う必要はなかったのに」 「俊介がもっと買ってくれと言ったのよ。あなたも知っているでしょう?彼の姉一家がシーフード料理が好きなのよ。自分の家では食べないくせに、ここに来るたびにシーフードを食べたいって言って、しかも高いものばかり選ぶのよ。姑は牛肉も食べたいって言うしね」 「私が出したお金で買ったものを、どうして彼らに全部食べさせなきゃならないの?昼には絶対に彼らには作らないわ。冷蔵庫に入れておいて、今夜、あなたと結城さんと一緒に食べるつもりよ」 昼には、彼女は義理の家族をわずかに二品の簡単な料理でもてなした。義理の家族たちは不機嫌そうな顔をしていたが、彼女はそれをまったく気にしないふりをした。 夕食は、皆満足して楽しんだ。 食事の後、少し休憩しただけで、結城理仁は帰りたくなった。内海唯花は仕方なく夫と一緒に帰宅した。 唯花夫婦が帰った後、佐々木唯月は構わず自分と妹夫婦の食器を片付け、台所で洗い始めた。 佐々木俊介は両親と姉にスイカを食べさせたがったの
「唯月、俊介は毎日仕事があって、忙しくて疲れているのよ。家族を、あなたと陽くんを養うためお金を稼いでいるの。あなたは彼の妻なんだから、彼をちゃんと世話するべきでしょ?家事を俊介にさせるなんて、どうしてそんなことができるの?」 「俊介があなたと生活費を半分ずつ負担してほしいと言ったのは、ただあなたに無駄遣いをしてほしくなかっただけなのよ。夫婦なのにそんなに細かく計算していたら、どうやって一緒に生活できるの?早く食卓を片付けなさい。俊介を怒らせないで。彼は外で働いていて、それだけでも十分疲れているんだから、あなたも彼のことを思いやるべきよ」 佐々木家の姉は母親の言葉に同調して言った。「そうよ。あなたは仕事もしていないし、家で陽くんの面倒を見ているだけでしょ。食べるものも着るものも住むところも、全て俊介のお金で賄っているのに、よくも俊介に家事をさせようと思えるわね?」 唯月は台所から出てきて、子供用バイクの前に歩み寄り、息子を抱き上げて、無表情で言った。「私は仕事もなく、収入源もなく、俊介に養われて、家で専業主婦として子供の世話をしているのに、俊介は私と生活費を割り勘にしようと言っている。それは一体どういう意味なの?」 「いいわ。割り勘にするなら割り勘にしましょう。生活費でも家事でも、全て割り勘で、それぞれが自分の分をするのよ。あなたたちは、私が家で子供を育てていて、暇だって言ったでしょ?何もしていないって言ったでしょ?だったら私はもう何もしないわ。俊介に、この家が勝手に綺麗で整頓されるわけじゃないってことを教えてあげる。彼の汚れた服や靴下が自動的にきれいになるわけじゃないってこともね」 唯月は片手で息子を抱え、もう片方の手で妹夫婦が買ってきたものを持ち、そのまま部屋に戻っていき、バタンとドアを閉めた。 「なんてやつだ!」 佐々木俊介は怒りでたまらず、果物ナイフをテーブルにバンと置き、袖をまくり上げて部屋に入って妻を殴りに行こうとした。 「俊介」 母親は再び息子を止めた。「何をするつもりなの?陽くんが中にいるのよ。陽くんを怖がらせないで。殴るなら、陽くんが寝た後にしなさい。それに、手を出す時は、目立つところを避けて。唯花に見られたら、きっとあなたに文句を言いに来るわよ。彼女の夫も一筋縄ではいかない人みたいだしね」 佐々木俊介は、結城
姉はさらに続けて言った。「あなたの家は学校からも遠くないし、学区内にある家でしょう」 「普段は唯月に子供の面倒を見てもらって、洗濯や食事の用意だけしてもらえばいいの。食費は......」 佐々木俊介は急いで言った。「姉さん、それは俺の姪と甥なんだから、食費なんていらないよ。俺が誰かに頼んで二人の転校手続きを手伝ってもらうよ。転校してきたら、毎日の送り迎えは唯月に任せればいい。どうせ彼女は家で暇なんだから」 俊介の姉夫婦は弟が二つ返事で承諾したのを見て、とても喜んだ。 母親は息子に注意を促して言った。「俊介、この件については唯月ともちゃんと相談しないとね。この家は彼女の家でもあるんだから」 彼女はまた自分の娘に言った。「聞いたところによると、ここの小学校に通っているだけではここの中学校に進学できるわけじゃなくて本籍を移さないといけないらしいわ。あなたのところも田舎というわけじゃないし、ただの郊外よ。周りの学校も悪くないわ。当時、あなたたち姉弟もそこの学校で勉強していたけど、それでも良い大学に合格できたじゃないの?」 彼女は、子供の成績が良ければ、どこで勉強しても大差ないと思っているのだ。 「そうね、母さんが言ってくれて思い出したわ。俊介、それなら子供の本籍をあなたたちの戸籍に移すか、あるいはまず家の名義を私の名義に変更するのはどう?子供たちが卒業したらまた本籍を移すか、家の名義をまたあなたに戻すのよ」 柏木さんは息子を抱きながらスイカを食べていた。この件に関して、彼は意見を述べなかった。 俊介はあまり深く考えずにすぐ承諾したが、こうも言った。「後で唯月に伝えておくよ。この家のことは俺が決めるけど、母さんの言う通り、彼女にも意見を出す権利が一応あるしね。それに、子供たちの送り迎えや食事の準備は彼女がやることになるから、まずは彼女の意見を聞いておかないとね」 「姉さん、打ち合わせてから連絡するよ。安心して、甥っ子がいい学校に通えないなんてことはないからね」 姉弟の絆は深い。俊介は姉を信頼していて、助けられることは助けたいと思っていた。それに甥は他人ではなく、実の甥だからだ。 彼の姉は心から喜んで、急に話題を変えて弟を諭し始めた。「後で唯月と喧嘩するのはやめなさい。夫婦の間に多少の意見の相違があるのは普通のことよ。あなたたち
佐々木一家は一緒にスイカを食べ、しばらくテレビを見た後、それぞれ部屋に戻って休むことにした。 彼らはここに数日間滞在する予定だ。 今は唯花が引っ越したので、部屋も一つ空いており、佐々木家の人たちが泊まるには十分だった。 内海唯花が家で家事を手伝わなくなった上、唯月は子供の世話や買い物や料理もしなければならないため、家は以前ほど清潔で整っていなかった。 部屋に入る前に、姉は弟を小声で呼び止めた。「唯花夫婦がたくさんのものを買ってきたのよ。さっき唯月が勢いに任せて全部部屋に運び入れたんだけど、私が見たところ、全部いいものばかりだったわ」 「いいタバコやお酒があるから、少し私の旦那にあげなさい。唯月はタバコも吸わないしお酒も飲まないし、あなたもそのくらいのものには困らないでしょう?旦那は普段、いいタバコを吸うのを惜しむくらいだしね。父さんだって、まだいいお酒を飲んだことがないから、そのお酒を父さんにあげなさい」 俊介は思わず笑いながら言った。「姉さん、何を言ってるの。そんなもの、気に入ったならどうぞ持って行って。さあ、早く甥っ子をお風呂に入れて寝かせてあげて。明日の夜は付き合いがないから、車でみんなをドライブに連れて行くよ」 「うん」 姉は満面の笑みを浮かべ、満足そうに部屋へ戻った。 佐々木俊介がドアを開けて中に入ると、陽は既に眠っていた。唯月はちょうど浴室から出てきたところで、俊介が入ってきたのを見ても、気にせずにベッドのそばに歩いていき、座るとそのまま横になろうとした。 「唯月、ちょっと話したいことがあるんだ」 俊介は彼女のまるまると太っている姿を見て、成瀬莉奈と比べると、嫌悪感が湧いてきた。彼は近づいてきて、ベッドの端に腰を下ろした。 彼はまず息子の小さな顔を触り、目つきが柔らかくなった。息子に対しては、やはり愛情を持っているのだ。 「何の話?」 唯月は淡々とした声で言った。 「姉さんが、上の二人の子供を都内の小学校に転校させたいって言ってたんだ。将来、中学校も都内で通わせるつもりだから、うちに住むことになる。だから、今後はその二人の子供の送り迎えを手伝ってあげてほしい。それから、食事も作ってあげてね。どうせ毎日料理するんだし、ただお箸とお椀を二つ増やすだけのことだから」 「生活費なら、毎月二万円多く
彼女は冷たく言った。「あなた、私は今私たちの子供を育てるために、自分の全てを捧げてるのよ。それなのに、あなたは私が食べることとお金を使うことしか知らない人だとか、お金を稼ぐこともできない役立たずなやつだとか、ひどい言葉ばかり言ってる。陽は私が産んだ子だから、元気に育つように、私はずっと我慢していたわ」「でも、お姉さんの二人の子どもは私とは関係ないわよ!あの子たちを育てるのは私の責任じゃないから、手伝うなんてありえない!それに、彼女に子供たちの戸籍を移させたら、デメリットはないとでも思ってるの?陽が将来いい学校に進学するチャンスが奪われるのよ」「不動産権利証の名義をあなたの姉にしてもいいわ。どうせその権利証には私の名前が載ってないから、何をしようとしても、それはあなたのことだから。将来、家を取り戻せるかどうかもあなたの問題だけど、ひとつだけ、姉に譲る前に、私がこの家のために払った内装費を返してもらうわ」「この家があなたの姉のものになったら、私が払った内装費が一円も戻ってこないのが嫌だから」佐々木俊介の顔はすぐに沈んだ。「生活費を多めに出すから、それでいいだろ?どうせ元から家で子供の世話をしてご飯を作るだけのことだから、一人でも二人でも、そんなに大して変わらないだろ?彼らはもう十歳だよ、物心がついてるんだ。あまり気を使わなくていい。ただあの子たちの宿題を見てやればいいからさ」「二万じゃ足りないと思うなら、あと一万出すよ、三万でいいか?」「子供の本籍を移すことは、陽の進学に影響したりしないよ。陽は小さくて、小学校にはまだ早い。彼女は俺の実の姉だから、もちろん信頼できるさ。家を返してくれないなんてありえない。内装費用だって、この家は俺が買ったもので、おまえもここに住んでるじゃないか?それくらいは、払って当然だろ」「よくも俺に内装費用を返せと言ったな!」唯月は夫をにらみつけた。彼女の心はますます悲しくなった。 結婚前、二人は長年愛し合っており、彼はとても良く振る舞っていた。結婚して最初の二年間もよかったが、今はますますダメになってきた。 彼の心は、あまりにも彼の両親と姉に偏っていた。 彼女のことを考えないのはまだいいとしても、彼はなんと息子の陽のことも考えていなかったのだ。 義理の姉がお願いすれば、彼はなんでも同意した。
俊介は怒りのあまりに、暴力に訴えそうになったが、唯月が突然彼の方向に振り向いた。拳を振り上げた彼を見て、唯月の目は冷たかった。「私を殴るなら、いっそ殴り殺してしまいなさい。さもないと、あなたは永遠に眠れなくなるわよ!」と彼女は厳しく言った。過去に俊介に叱られても、殴られても、彼女は全て耐えていた。 その時は家族のため、息子のためだと思い、それに夫への愛情もあったからだ。でも俊介が出費を半分ずつ負担すると決して譲らなかった時から、唯月はあきらめてしまった。 彼女は以前、俊介と同じ会社で働いていたため、俊介の月収をはっきりと知っていた。 月に数十万だった。 しかし、彼は彼女に生活費として六万しか渡さず、それ以上は一銭も渡そうとしなかった。 そして、彼女と割り勘にすることにしたのだ。がっかりしない訳はなかった。 がっかりしているから、彼女は以前のように猫をかぶり、すべてにおいて俊介に従順な妻を演じることをやめた。 佐々木俊介がまた彼女に暴力を振るというのなら、眠らないのが一番の選択だろう。そうでなければ、彼女はその暴力を振る両手を切り落とすこともできるのだから。 俊介は、妻の目の獰猛さに怯え、妻の悪質な脅しに腹を立てたはしたが、結局は拳を下ろした。「おまえは本当に救いのないやつだな!」と罵り、そして立ち去った。 唯月は部屋のドアが閉められるのを見て、鼻をすすり、目に涙を浮かべた。その涙は止まらず、目尻からこぼれ落ちた。 姉と義兄がまた喧嘩になったことは知らなかったが、内海唯花は家に帰った後、ずっと胸が詰まる感じがしていた。 彼女はベランダのハンモックチェアに座り、外の星空を眺めながら、物思いにふけていた。 結城理仁が温かいお茶を入れて彼女に手渡し、優しく言った。「夕飯の料理は、少し塩辛かったから、お茶を飲んだほうがいいぞ」 内海唯花は彼を見上げ「ありがとう」と言いながらお茶を受け取った。 「何か気になることでも?」 結城理仁は彼女の隣に座った。 唯花はお茶を飲み、しばらく沈黙した後、口を開いた。「姉の生活がどんどん辛くなっているような気がして。私が引っ越した後、姉の暮らしは楽になると思っていたけど、あんな義理の姉と両親がいて、そして夫も家族を味方してるから、姉は彼らにいじめられてるんじゃないか、心配なの
内海唯花がご飯を食べる速度はとても速く、以前はいつも唯花が先に食べ終わって、すぐに唯月に代わって陽にご飯を食べさせ、彼女が食べられるようにしてくれていた。義母のほうの家族はそれぞれ自分が食べることばかりで、お腹いっぱいになったら、全く彼女のことを気にしたりしなかった。まるで彼女はお腹が空かないと思っているような態度だ。「母さん、エビ食べて」佐々木俊介は母親にエビを数匹皿に入れると、次は姉を呼んだ。「姉さん、たくさん食べて、姉さんが好きなものだろ」佐々木英子はカニを食べながら言った。「今日のカニは身がないのよ。小さすぎて食べるところがないわ。ただカニの味を味わうだけね」唯月に対する嫌味は明らかだった。佐々木俊介は少し黙ってから言った。「次はホテルに食事に連れて行くよ」「ホテルのご飯は高すぎるでしょ。あなただってお金を稼ぐのは楽じゃないんだし。次はお金を私に送金してちょうだい。お姉ちゃんが買って来て唯月に作らせるから」佐々木英子は弟のためを思って言っている様子を見せた。「それでもいいよ」佐々木俊介は唯月に少しだけ労働費を渡せばいいと思った。今後は海鮮を買うなら、姉に送金して買ってきてもらおう。もちろん、姉が買いに行くなら、彼が送金する金額はもっと多い。姉は海鮮料理が好きだ。毎度家に来るたび、毎食は海鮮料理が食べたいと言う。魚介類は高いから、姉が買いに行くというなら、六千円では足りるわけがない。佐々木家の母と子供たち三人は美味しそうにご飯を食べていた。エビとカニが小さいとはいえ、唯月の料理の腕はかなりのものだ。実際、姉妹二人は料理上手で、作る料理はどれも逸品だった。すぐに母子三人は食べ終わってしまった。海鮮料理二皿もきれいに平らげてしまい、エビ半分ですら唯月には残していなかった。佐々木母は箸を置いた後、満足そうにティッシュで口元を拭き、突然声を出した。「私たちおかず全部食べちゃって、唯月は何を食べるのよ?」すぐに唯月のほうを向いて言った。「唯月、私たちったらうっかりおかずを全部食べちゃったのよ。あなた後で目玉焼きでも作って食べてちょうだい」佐々木唯月は顔も上げずに慣れたように「わかりました」と答えた。佐々木陽も腹八分目でお腹がいっぱいになった。これ以上食べさせても、彼は口を開けてはくれない。佐々木
佐々木俊介は彼女を睨んで、詰問を始めた。「俺はお前に一万送金しなかったか?」それを聞いて、佐々木英子はすぐに立ち上がり、急ぎ足でやって来て弟の話に続けて言った。「唯月、あんた俊介のお金を騙し取ったのね。私には俊介が六千円しかくれなかったから、大きなエビとカニが買えなかったって言ったじゃないの」佐々木唯月は顔も上げずに、引き続き息子にご飯を食べさせていた。そして感情を込めずに佐々木俊介に注意した。「あなたに言ったでしょ、来たのはあなたの母親と姉でそもそもあんたがお金を出して食材を買うべきだって。私が彼女たちにご飯を作ってあげるなら、給料として四千円もらうとも言ったはずよ。あんた達に貸しなんか作ってないのに、タダであんた達にご飯作って食べさせなきゃならないなんて。私にとっては全くメリットはないのに、あんた達に責められて罵られるなんてありえないわ」以前なら、彼女はこのように苦労しても何も文句は言わなかっただろう?佐々木俊介はまた言葉に詰まった。佐々木英子は弟の顔色を見て、佐々木唯月が言った話は本当のことだとわかった。そして彼女は腹を立ててソファに戻り腰掛けた。そして腹立たしい様子で佐々木唯月を責め始めた。「唯月、あんたと俊介は夫婦よ。夫婦なのにそんなに細かく分けて何がしたいのよ?それに私とお母さんはあんたの義母家族よ。あんたは私たち佐々木家に嫁に来た家族なんだよ。あんたに料理を作らせたからって、俊介に給料まで要求するのか?こんなことするってんなら、俊介に外食に連れてってもらったほうがマシじゃないか。もっと良いものが食べられるしさ」佐々木唯月は顔を上げて夫と義姉をちらりと見ると、また息子にご飯を食べさせるのに専念した。「割り勘でしょ。それぞれでやればいいのよ。そうすればお互いに貸し借りなしなんだから」佐々木家の面々「……」彼らが佐々木俊介に割り勘制にするように言ったのはお金の話であって、家事は含まれていなかったのだ。しかし、佐々木唯月は徹底的に割り勘を行うので、彼らも何も言えなくなった。なんといっても割り勘の話を持ち出してきたのは佐々木俊介のほうなのだから。「もちろん、あなた達が私に給料を渡したくないっていうのなら、ここに来た時には俊介に頼んでホテルで食事すればいいわ。私もそのほうが気楽で自由だし」彼女も今はこの気分を
しかも一箱分のおもちゃではなかった。するとすぐに、リビングの床の上は彼のおもちゃでいっぱいになってしまった。佐々木英子は散らかった部屋が嫌いで、叫んだ。「唯月、今すぐ出てきてリビングを片付けなさい。陽君がおもちゃを散らかして、部屋中がおもちゃだらけよ」佐々木唯月はキッチンの入り口まで来て、リビングの状況を確認して言った。「陽におもちゃで遊ばせておいてください。後で片づけるから」そしてまたキッチンに戻って料理を作り始めた。陽はまさによく動き回る年頃で、おもちゃで遊んだら、また他の物に興味を持って遊び始める。どうせリビングはめちゃくちゃになってしまうのだ。佐々木英子は眉間にしわを寄せて、キッチンの入り口までやって来ると、ドアに寄りかかって唯月に尋ねた「唯月、あんたさっき妹に何を持たせたの?あんなに大きな袋、うちの俊介が買ったものを持ち出すんじゃないよ。俊介は外で働いてあんなに疲れているの。それも全部この家庭のためなのよ。あんたの妹は今結婚して自分の家庭を持っているでしょ。バカな真似はしないのよ、自分の家庭を顧みずに妹ばかりによくしないで」佐々木唯月は後ろを振り返り彼女を睨みつけて冷たい表情で言った。「うちの唯花は私の助けなんか必要ないわ。どっかの誰かさんみたいに、自分たち夫婦のお金は惜しんで、弟の金を使うようなことはしません。美味しい物が食べたい時に自分のお金は使わずにわざわざ弟の家に行って食べるような真似もしませんよ」「あんたね!」逆に憎まれ口を叩かれて、佐々木英子は卒倒するほど激怒した。暫くの間佐々木唯月を物凄い剣幕で睨みつけて、佐々木英子は唯月に背を向けてキッチンから出て行った。弟が帰って来たら、弟に部屋をしっかり調べさせて何かなくなっていないか確認させよう。もし、何かがなくなっていたら、唯月が妹にあげたということだ。母親と姉が来たのを知って、佐々木俊介は仕事が終わると直接帰宅した。彼が家に入ると、散らかったリビングが目に飛び込んできた。そしてすぐに口を大きく開けて、喉が裂けるほど大きな声で叫んだ。「唯月、リビングがどうなってるか見てみろよ。片付けも知らないのか。陽のおもちゃが部屋中に転がってんぞ。お前、毎日一日中家の中にいて何やってんだ?何もやってねえじゃねえか」佐々木唯月はお椀を持って出て来た。先
それを聞いて、佐々木英子は唯月に長い説教をしようとしたが、母親がこっそりと彼女の服を引っ張ってそれを止めたので、彼女は仕方なくその怒りの火を消した。内海唯花は姉を手伝ってベビーカーを押して家の中に入ってきた。さっき佐々木英子が姉にも六千円出して海鮮を買うべきだという話を聞いて、内海唯花は怒りで思わず笑ってしまった。今までこんな頭がおかしな人間を見たことはない。「お母さん」佐々木英子は姉妹が家に入ってから、小さい声で母親に言った。「なんで私に文句言わせてくれないのよ!弟の金で食べて、弟の家に住んで、弟の金を浪費してんのよ。うちらがご飯を食べに来るのに俊介の家族だからってはっきり線を引きやがったのよ」「あんたの弟は今唯月と割り勘にしてるでしょ。私たちは俊介の家族よ。ここにご飯を食べに来て、唯月があんなふうに分けるのも、その割り勘制の理にかなってるわ。あんたが彼女に怒って文句なんか言ったら、誰があんたの子供たちの送り迎えやらご飯を作ってくれるってんだい?」佐々木英子は今日ここへ来た重要な目的を思い出して、怒りを鎮めた。しかし、それでもぶつぶつと言っていた。弟には妻がいるのにいないのと同じだと思っていた。佐々木唯月は義母と義姉のことを全く気にかけていないと思ったのだった。「唯月、高校生たちはもうすぐ下校時間だから、急いで店に戻って店番したほうがいいんじゃないの?お姉ちゃんの手伝いはしなくていいわよ」佐々木唯月は妹に早く戻るように催促した。「お姉ちゃん、私ちょっと心配だわ」「心配しないで。お姉ちゃんは二度とあいつらに我慢したりしないから。店に戻って仕事して。もし何かあったら、あなたに電話するから」内海唯花はやはりここから離れたくなかった。「あなたよく用事があって、いつも明凛ちゃんに店番させてたら、あなた達がいくら仲良しの親友だからって、いつもいつもはだめでしょ。早く店に戻って、仕事してちょうだい」「明凛は理解してくれるよ。彼女こそ私にお姉ちゃんの手伝いさせるように言ったんだから。店のことは心配しないでって」「あの子が気にしないからって、いつもこんなことしちゃだめよ。本当によくないわ。ほら、早く帰って。お姉ちゃん一人でどうにかできるから。大丈夫よ。あいつらが私をいじめようってんなら、私は遠慮せずに包丁を持って街中を
両親が佐々木英子の子供の世話をし、送り迎えしてくれている。唯月は誰も手伝ってくれる人がおらず自分一人で子供の世話をしているから、ずっと家で専業主婦をするしかなかったのだ。それで稼ぎはなく彼ら一家にこっぴどくいじめられてきた。母と娘はまたかなり待って、佐々木唯月はようやく息子を連れて帰ってきた。母子の後ろには内海唯花も一緒について来ていた。内海唯花の手にはスーパーで買ってきた魚介類の袋が下がっていた。佐々木家の母と娘は唯月が帰って来たのを見ると、すぐに怒鳴ろうとしたが、後ろに内海唯花がついて来ているのを見て、それを呑み込んでしまった。先日の家庭内暴力事件の後、佐々木家の母と娘は内海唯花に話しに行ったことがある。しかし、結果は唯花に言いくるめられて慌てて逃げるように帰ってきた。内海唯花とはあまり関わりたくなかった。「陽ちゃん」佐々木母はすぐにニコニコ笑って彼らのもとに行くと、ベビーカーの中から佐々木陽を抱き上げた。「陽ちゃん、おばあちゃんとっても会いたかったわ」佐々木母は孫を抱きながら両頬にキスの嵐を浴びせた。「おばあたん」陽は何度もキスをされた後、小さな手で祖母にキスされたところを拭きながら、祖母を呼んだ。佐々木英子は陽の顔を軽くつねながら笑って言った。「暫くの間会ってなかったら、陽君のお顔はぷくぷくしてきたわね。触った感じとても気持ちいいわ。うちの子みたいじゃないわね。あの子は痩せてるからなぁ」佐々木陽は手をあげて伯母が彼をつねる手を叩き払った。伯母の彼をつねるその手が痛かったからだ。佐々木唯月が何か言う前に佐々木母は娘に言った。「子供の目の前で太ってるなんて言ったらだめでしょう。陽ちゃんは太ってないわ。これくらいがちょうどいいの」佐々木母は外孫のほうが太っていると思っていた。「陽ちゃんの叔母さんも来たのね」佐々木母は今やっと内海唯花に気づいたふりをして、礼儀正しく唯花に挨拶をした。内海唯花は淡々とうんと一言返事をした。「お姉さんと陽ちゃんを送って来たんです」彼女はあの海鮮の入った袋を佐々木英子に手渡した。「これ、あなたが食べたいっていう魚介類です」佐々木英子は毎日なかなか良い生活を送っていた。両親が世話をしてくれているし、美味しい物が食べたいなら、いつでも食べられるのに、わざわざ弟の家に来
二回も早く帰るように佐々木唯月に催促しても、失敗した英子は腹を立てて電話を切った後、母親に言った。「お母さん、唯月は妹の店にいて、陽君が寝てるから起きてから帰るって。それでうちらに鍵を取りに来いってさ」佐々木家の母親は眉間にしわを寄せ、不機嫌そうに言った。「陽ちゃんが寝てるなら、唯月が抱っこして連れて帰って来ればいいじゃないの。唯花には車もあるし、車で二人を連れて来てくれればそんなに時間はかからないじゃないか」息子の嫁はわざと自分と娘を家の前で待たせるつもりだと思った。「わざとでしょ。わざと私たち二人をここで待たせる気なんだよ」佐々木英子も弟の嫁はそのつもりなのだと思っていた。「前、お母さんがわざと鍵を忘れて行ったことがあったじゃない。彼女が不在だったら、電話すれば唯月はすぐに帰ってきてドアを開けていたわ。今回みたいに私らを長時間待たせることなんかなかった。お母さん、俊介たち夫婦が大喧嘩してから唯月の態度がガラッと変わったと思うわ」佐々木母もそれに同意した。「確かにね」佐々木英子は怒って言った。「唯月はこの間うちの俊介をあんな姿にさせて、ずっと俊介を迎えに来るのを拒んでいたわ。だから、私たちで俊介を説得して帰らせることになった。私たちは全部陽君のためだったのよ。もし陽君のためじゃなければ、俊介に言ってあんな女追い出してやったのに。家は俊介のものよ。本気でうちらを怒らせたら、俊介にあいつを追い出させましょ!」昔の佐々木唯月は夫の顔を立てるために、義姉である佐々木英子には寛容だった。いつも英子から責められ、けちをつけられても許していたのだ。今佐々木英子は更に唯月のことが気に食わなくなり、弟にすぐにでも唯月を追い出してもらいたかった。離婚しても、彼女の弟みたいに条件が良ければ成瀬莉奈のように若くてきれいなお嬢さんを嫁として迎えることができるのだ。佐々木唯月が俊介と離婚したら、一体誰があんな女と結婚しようと思う?再婚したかったら、70や80過ぎのじいさんしか見つからないだろう。「この話は私の前でだけ話しなさい。俊介には言わないのよ」佐々木母は心の中では唯月に不満を持っていたが、孫のためにもやはり息子と嫁の家庭を壊したくなかったので、娘に忠告しておいた。娘が息子の前でまた嫁の悪口を言うのを止めたかったのだ。「お母さん、わ
「妹はあんたに何か貸しでも作ってたかしら?あんたの母親と姉が食べたいんでしょ、なんで妹がお金を出す必要があるのよ?俊介、結婚してから三年余り、私は仕事をしてないからお金を稼いでない。だけど、家庭のためにたくさん犠牲にしてきたのよ。私が裏であなたを支えてなかったら、あんたは安心して仕事ができた?今のあんたがいるのは一体誰のおかげだと思ってるの?お金をくれないってんなら、私だって買いに行かないわ。それから、送金するなら私の労働費もプラスしてもらわないとね。あんたが割り勘にしたいって言ってきたのよ。あれはあんたの母親と姉で私があの人たちに食事を作ってやる義務なんかないわ。私に料理をしてあの人たちに食べさせろっていうなら、お給料をもらわないとね。三年以上夫婦としてやってきたんだから、それを考慮して四千円で手をうってあげるわ」佐々木俊介は電話の中で怒鳴りつけた。「金の浪費と食べることしかできないやつがよく言うぜ。今の自分のデブさを見てみろよ。てめえが家庭のために何を犠牲にしたってんだ?俺には全く見えないんだがな。俺が今仕事で成功しているのは俺自身が努力した結果だ。てめえのおかげなんてこれっぽっちも思っていないからな。なにが給料だよ?俺の母さんはお前の義母だろ?どこの嫁が義母に飯を作るのに給料を要求するってんだ?そんなこと他所で言ってみ?世間様から批判されるぞ」「お金をくれないなら、私は何もしません」佐々木唯月はそう言うと電話を切ってしまった。佐々木俊介は妻に電話を切られてしまって、怒りで携帯を床に叩きつけたい衝動に駆られた。しかし、その携帯を買ってからまだそんなに経っていないのを思い出してその衝動を抑えた。その携帯は成瀬莉奈とお揃いで買ったものだ。一括で同じ携帯を二台買い、一つは自分に、もう片方は成瀬莉奈にあげたのだ。だからその携帯を壊すのは惜しい。「このクソデブ女、陽が幼稚園に上がったら見てろよ!俺と離婚したら、お前みたいなブスを誰がもらってくれるんだ?くたばっちまえ!」佐々木俊介はオフィスで佐々木唯月をしばらく罵り続け、結局は唯月に一万円送金し彼女に海鮮を買いに行かせることにした。しかし、唯月が買い物をした後、レシートを残しておくように言った。夜彼が家に帰ってからそれを確認するためだ。「あいつ、お姉ちゃんに帰ってご飯を作れって?
佐々木唯月は強く下唇を噛みしめ、泣かないように堪えていた。彼女はもう佐々木俊介に泣かされた。だから、もう二度と彼のために涙を流すことはしたくなかった。彼女がどれだけ泣いても、彼がもう気にしないなら、流した涙で自分の目を腫らすような辛い思いをする必要があるのか?「大丈夫よ」佐々木唯月は証拠をまた封筒の中に戻し、気丈に平気なふりをして言った。「お姉ちゃんの気持ちはだいぶ落ち着いているわ。今彼の裏切りを知ったわけではないのだし」「唯花」佐々木唯月は封筒を妹に渡した。「お姉ちゃんの代わりにこの証拠をしっかり保管しておいてちょうだい。私が家に持って帰って、彼に見つかったら財産を私から奪われないように他所に移してしまうかもしれない。そうなると私が不利になるわ」「わかった」内海唯花は封筒を受け取った。佐々木唯月は冷静に言った。「あなたに言われた通り、まずは何もしらないふりをしておく。仕事が安定したら、離婚を切り出すわ。私がもらう権利のあるものは絶対に奪い取ってみせる。あんな奴の好きにはさせないんだから!」結婚した後、彼女は仕事を辞めてしまったが、彼女だって家庭のために多くのことをやってきたのだ。結婚してから佐々木俊介の稼ぎは夫婦二人の共通の財産である。彼の貯金の半分を奪い取って、発狂させてやる!それから、現在彼らが住んでいるあの家のリフォーム代は彼女が全部出したのだ。佐々木俊介にはそのお金も返してもらわなければならない。「お姉ちゃん、応援してるからね!」内海唯花は姉の手を握りしめた。「お姉ちゃん、私がいるんだから、思いっきりやってちょうだい!」「唯花」佐々木唯月は妹を抱きしめた。彼女が15歳の時に両親が亡くなり、それから姉妹二人で支え合って、一緒に手を取り合い今日までやってきた。だから、彼女は佐々木俊介というあのゲス男には負けたりしない。「プルプルプル……」佐々木唯月の携帯が突然鳴り響いた。妹から離れて、携帯の着信表示を見てみると佐々木俊介からだった。少し躊躇って、彼女は電話に出た。「唯月、今どこにいるんだ?」佐々木俊介は開口一番、彼女に詰問してきた。「一日中家にいないでさ、母さんと姉さんが来たらしいんだ、家に入れないって言ってるぞ」佐々木唯月は冷ややかな声で言った。「お義母さ
結城理仁は椅子に少し座ってから、会社に戻ろうとした。内海唯花が食器を洗い終わりキッチンから出てくると、彼が立ち上がり出ていこうとしていたので、彼に続いて外に出て行った。彼は一言もしゃべらず、車から大きな封筒を取り、振り返って内海唯花に手渡し声を低くして言った。「この中に入ってる」内海唯花は佐々木俊介の不倫の証拠を受け取り、もう一度お礼を言おうとした。その時彼のあの黒く深い瞳と目が合い、内海唯花は周りを見渡した。しかし、通りには人がいたので、やろうとしていたことを諦めた。「車の運転気をつけてね。会社にちゃんと着いたら私に連絡して教えてね」結城理仁は唇をきつく結び、低い声で返事をした。彼は車に乗ると、再び彼女をじいっと深く見つめて、それからエンジンをかけ運転して店を離れた。内海唯花はその場に立ったまま、遠ざかる彼の車を見つめ、彼らの間に少し変化があるのを感じた。彼が自分を見つめる瞳に愛が芽生えているような気がした。もしかしたら、彼女は気持ちをセーブせず、もう一度思い切って一歩踏み出し、愛を求めてもいいのかもしれない。半年の契約はまだ終わっていないのだから、まだまだチャンスはある。そう考えながら、内海唯花は携帯を取り出し結城理仁にLINEを送って彼に伝えた。「さっきキスしたかったけど、人がいたから遠慮しちゃったわ」メッセージを送った後、彼女は結城理仁の返事は待たなかった。少ししてから、内海唯花は大きな封筒を持って店に入っていった。佐々木陽は母親の懐でぐっすり寝ていた。牧野明凛は二匹の猫を抱っこして遊んでいて、内海唯花が入って来るのを見て尋ねた。「旦那さんは仕事に行った?」「うん、仕事の時間になるからね。彼は仕事がすごく忙しいから夜はよく深夜にやっと帰ってくるの」内海唯花も二匹の子猫を触った。結城理仁が彼女にラグドールを二匹プレゼントしてくれた。彼女に対して実際とてもよくしてくれている。犬もとても可愛い。ペットを飼うことになったので、彼女は後でネットショップで餌を買うことにした。「お姉ちゃん、あそこにソファベッドがあるから陽ちゃんをそこで寝かせたらいいよ。ずっと抱っこしてると疲れるでしょ」内海唯花は姉のもとへ行き、甥を抱き上げて大きな封筒を姉に渡して言った。「これ、理仁さんが友達に頼んで集め